今年の桜前線はすでに北海道に到着しているようだ。
朝のニュースで見た満開の桜の風景を、
もう東京近郊で見ることはできない。
きっとこの辺りも、お花見のシーズンは
さらに多くの人で賑わっていたに違いない。
商店街の先にある「かむろ坂通り」の街路樹は
桜の木だった。
ついこの間まで満開であったろう景色を
思い浮かべながら木々を見上げた。
花は散ってしまったかもしれないが、
今は青々とした緑の葉が空に向かって
力強く広がっている。
今日は不動前駅通り商店街にやってきた。

不動前駅は目黒駅から東急目黒線に乗って一駅。
駅に降り立ち、
改札を出たところから商店街が広がっている。
ちょうど夕方ぐらいの時間だったからか、
子供を後ろに乗せて自転車を走らせるお母さんや、
学校帰りの子供たちが見える。
ランドセルを揺らしながら
小学生らしき子たちが三、四人で固まって、
何やら楽しそうにはしゃいでいる。
私服の子供たちもいれば、
お揃いの制服を着た子もいるから
同じ学校ではないのかもしれない。
みんなで顔を寄せ合って話しながら、
道の真ん中から右へ行ったり左へ行ったり、
それぞれの家に着くまでにはだいぶ時間がかかりそうだ。
ふと考えると、学校帰りの子供たちを見かけるのは
久しぶりなような気がした。
単純に私が小学生の下校時間に外を歩いていないだけなのか、
小さな子供たちだけで歩いていると
妙に危なく感じてしまうほど、
世の中が物騒になってしまったのか。
賑やかな子供たちについて行くでもなく、
付かず離れず歩調を合わせながら
ゆっくりと歩いていると、
なんとなく穏やかな気持ちになった。

商店街を進んでいくと、たくさんの花が並ぶお店があった。
「山本生花店」のお店の前には、
花壇に植える苗木から鉢植えの観葉植物、
サボテンやハーブまで、いろいろな種類が並んでいる。
春だからかもしれないが、
花束にまとめられた切花までもが鮮やかな色合いで、
みんな新鮮でとても元気そうだ。
お店の方に尋ねてみると、
寺院の多い場所ということもあり
仏花を中心に売っているそうだ。
確かに目黒不動尊を中心に近辺には
多くの寺院が点在することから、
お墓参りで訪れる人々も多いのだろう。
しかしお店の中に入ると、
とても仏花用だけに用意されたとは思えないぐらい、
ガラスケースには見事なバラや大きな向日葵が並んでいた。

さらに先を行くと赤い看板が目に入った。
「BISTRO BAKERY TATSUMI」。
外からお店をのぞくと、
トレーを持ったお客さんがレジの前に立っていた。
小さいお店だが、棚にはたくさんのパンが並んでいる。
お客さんが居なくなるタイミングを見計らって
お店に入っていくと、
中央にはお店の名前のついた「TATSUMIパン」という
まん丸なフォカッチャのようなパンがあった。
昨年オープンしたこのお店は、
中目黒にあるレストランBistro Tatsumiが
プロデュースしたパン屋さんなのだそうだ。
このTATSUMIパンはそのビストロでも提供している
人気の商品で、ほかにもマルゲリータのようなピザ風のパンや
自家製チーズをのせたバケットなどもあり、
ランチというかワインのおつまみとしてもいただけそうだ。
ちょうど2年目に入るこのお店は、
ビストロのある中目黒とはまた違い、
この街周辺の雰囲気がとても気に入って
ここに出店を決めたそうだ。
お店の方もすぐ近所に住んでいるそうだが、
便利でほんとにとても住みやすい街なんですよ、
とにこやかに話してくれた。
せっかくなので自分用にもいくつかパンを選んでみた。
早速、今晩のおつまみにさせてもらおう。

いつのまにか日も暮れてきて、
さっきまでの春の暖かい空気が
少しヒンヤリと冷たく感じるようになってきた。
駅まで戻ってくると、
子供たちの姿も見えなくなってしまった。
改札から出てくる人たちは皆、
家路へと急いでいるように見える。
駅前にある居酒屋の看板がなんとなく目に付く時間になってきた。

「夕焼け小焼けで日が暮れて…」

どこからか「夕焼け小焼け」の音楽が聞こえてきた。
どうやら街中にあるスピーカーから流れてきているようだ。

「おててつないでみなかえろ　からすといっしょにかえりましょ」

ぼんやりと耳を傾けていると、
絶妙なタイミングでどこかのカラスが「カー」と鳴いた。
どうやらカラスにも急かされているようなので、
今日はパンをお土産に私もそろそろ家に帰るとしようか。

案内人:庄尾なつみ
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