田町
山手線 田町駅

慶応仲通り商店街

商店街一覧

今年最後の満月の夜に

JRの改札を出て右に行けば「芝浦口」、
左に行けば「三田口」。
大きな人の波が改札を通り抜け、
左右に分かれてそれぞれの目的地へと向かっていく。
私の体もその流れに巻き込まれながら、
ぐいぐいと前方に押され、
駅の構内へと吐き出される。
周りを見渡すと、
今日はいつも以上に人で溢れているような気がする。
年の瀬の12月、
時間はもう午後の4時を回ったところだろうか。
歩いている人たちは皆、バタバタと忙しそうに見える。
今日一日に急かされているのか、
今年一年に急かされているのか、
残り少ない時間でやり残したことをなんとか消化しなくてはと、
焦っているようなそんな空気を感じる。
ここはJR田町駅。
今日は「慶応仲通り商店街」にやってきた。

個人的なことではあるが、
この一年、私は何度もこの田町駅を訪れた。
駅を中心に左右に分かれた芝浦側も三田側も、
あちこちと歩いて回ることが多かったせいで、
ここ周辺の地理に少し詳しくなってしまった。
今年のはじめ頃に、
何年ぶりかでこの駅に降り立った時、
記憶に残る景色からだいぶ変わっていることに私はとても驚いた。
駅周辺の開発は凄まじく、
初めて見る新しい駅ビルのすぐ隣には、
深く地中を掘り下げたところに工事現場があり、
剥き出しのコンクリートと、
何台もの重機が蠢いているのを見ると、
開発はまだ現在進行中で、
この先もさらに変化を遂げるであろうことを想像させた。

慶応仲通り商店街は三田口を出て5分ほど歩いたところにある。
その名の通り、そばには慶應義塾大学があるが、
学生街というよりは周辺はオフィスが多いので、
夕方になった今ぐらいの時間になると、
人通りはさらに増える。
会社に戻る人や、
そろそろ帰宅へと急ぎ駅に向かう人などが入り混じっている。
交差点を渡り、目的地へと向かう。
ちょうど商店街のアーチをくぐる少し手前に、
まだ立って間もないような新しいオフィスビルが目に入った。
ビルのエントランス付近には緑も多く、
ライトアップされた木々の奥にガラス張りのカフェがあった。
気になって入ってみると、店内はほぼ満席だったが、
騒がしさはなく、静かで落ち着いた時間が流れていた。
一人でパソコンの作業をしている人もいれば、
仕事の打ち合わせだろうか、
数人がテーブルを囲んでいるのも見える。
お店の中央でコーヒーを淹れている店長に話しを伺ってみた。
「Squad Base Cafe by SIVA Inc.」は
昨年の7月にオープンしたカフェで、
お客さんは学生や周辺の人も多いが、
主にビジネスマンがコワーキングスペースとして
利用することが多いそうだ。
たしかに耳に入ってくる会話からは、
ビジネスに関する言葉が多いように感じる。
せっかくなので少しこのお店で休むことにした。
師走の厳しい寒さで体は冷え切っていたので、
温かいコーヒーで一息つくことができた。

カフェを出てさっそく商店街に入っていく。
夕暮れ近くなって外はだいぶ薄暗くなってきたが、
対照的に商店街の灯はさらに明るさを増してくる。
慶応仲通り商店街には多くの飲食店が立ち並び、
とくに年末のこの時期は忘年会シーズン真っ只中で、
より一層盛況だ。
よく見掛けるチェーン店の居酒屋もあれば、
少し奥にはいった路地には、
昔ながらの赤ちょうちんが連なって見える。
メイン通りでは、
威勢のいい呼び込みのお兄さんたちの声が飛び交う。
あきらかに場違いな私などには目もくれず、
すぐ後を歩くサラリーマン風の二人連れに元気よく声を掛けている。
一軒の洋風居酒屋の横を歩きながら、
そっとお店の窓から中を覗くと、
10人ぐらいの団体客が
大きなテーブルに並んで着席しているのが見えた。
きっと近くにある会社の忘年会に違いない。
料理もお酒もまだ運ばれてはおらず、
会が始まるにはまだ少し時間があるようだ。
みんな行儀良く待ちながら、にこやかに話しをしている。
しかし、こういうほんの少しの待ち時間が、
実はちょっとだけ気まずかったりもする。
まだお酒も入っていないのでお互い少し気恥ずかしく、
お隣の人と差し障りのない会話でその間をつないだりして。
もちろん話し声は聞こえないが、
なんとなくそんなぎこちなさが、
のぞき見しているこちらにも伝わってくる気がする。
しかし、どんな宴会も始まってしまえば場は和み、
さっきまでのぎこちなさなんてどこかに消え、
宴もたけなわとなっていく。
そんな年の瀬の光景を垣間見つつ、私は先を歩いて行った。
どのお店も人で賑わい活気付いている。

やがてまっすぐに続いたメイン通りは途切れ、
頭上にあるアーチを通り抜けると一気に視界が広がり、
大きい車道に出た。
道路を越えたところに広い敷地があり高い建物が見える。
どうやらそこが慶應義塾大学の校舎のようだ。
商店街からの熱気を少し冷まそうと、
車道沿いをしばらく歩いてみることにした。
通りの先に「望月洋服店」と書かれた看板が目に入った。
ショーウィンドウには
「祝 ご入学 ご進学おめでとうございます」とあり、
慶應義塾の認可洋服店と書かれていた。
1933年創業の老舗洋服店は、
主に慶應義塾の制服を製造、販売をしている。
今は、新入学に備えて制服を準備する時期のようで、
学生服やブレザーがウィンドウに並んでいる。
ぼんやりと眺めていたら、目の前を小さな女の子が、
母親に手を引かれてお店の中に入っていった。
女の子は肩まで伸びた髪を三つ編みにしている。
まさに来春の新入生だろうか。
きっとお母さんと一緒に、
たくさん勉強をしてたくさんがんばったに違いない。
「ご入学おめでとうございます」
私は心の中でつぶやきながら小さく頭を下げた。

洋服店を離れ、来た道を戻り駅へと帰路に向かった。
もうすっかり日も落ちて、
車道の先には港区では馴染み深い東京タワーが間近にそびえ立つ。
空気が冷たく澄んでいるせいか、
今日はきらびやかなイルミネーションがよりいっそう輝いて見える。
駅前の交差点まで戻って来て、ふと通りの向こうを見上げると、
空にはまん丸なお月様。
どうやら今日は満月のようだ。

今宵は満月。月夜の宴に皆が集う。
今年あった良いことも悪いことも、
今夜は大いに語り合い、楽しい酒を酌み交わそうじゃないか。

今年最後の満月の夜は、まだ始まったばかりだ。
話は尽きることはなく、明るい笑い声もあり、
ちょっとの涙もあるかもしれない。
月を見上げ、もうすぐやってくる新年に想いを馳せながら、
私はこの街を後にした。

案内人:庄尾なつみ
写真はこちら

案内人

商店街。ひと、もの、あじ

商店街。MAP

  • ●住所
     ・港区

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