多摩川
東急多摩川線 多摩川駅

多摩川園前商栄会

商店街一覧

川風に吹かれて、この先何処へ行こうか。

東急多摩川線の多摩川駅。路線名と駅名が変わって何年経つのだろう。
以前は東急目蒲線の多摩川園前駅という名称だった。
その名の通り、駅の前には多摩川園と言う遊園地が存在していた。
今、遊園地も駅名も無くなってしまったが、
駅前通りの商店街の古びた看板には多摩川園前商栄会と書かれている。
この商店街名は、ここに遊園地があった確かな証だ。
商店街には数軒の飲食店と
「本日定休日」の手書きの紙が貼られたベーカリーがあった。
通りの中程で、半分シャッターが下りた店舗の真新しい暖簾に
「鮎やき」の文字を見つけた。
暖簾には小さく「昭和四年創業」とある。
店を覗くと鮎の形をした焼き型でたっぷりの餡を詰めた菓子を焼いている。
店舗は新しくなったけど、
子供の頃に見覚えがある鮎のカタチをしたお菓子だ。
今日は定休日なのだが、予約注文の鮎やきを焼いているとのこと。
失礼を承知で中に入って写真を撮らせてもらい、お話を伺った。
無理を言って、一つわけてもらい、近くを流れる多摩川の河川敷に行った。
僕が生まれ育った街は、目の前の多摩川を下った河口近くにある。
小さな頃、遊園地と言えば多摩川園だった。
菓子を齧ると、甘さの中に淡い記憶が鮮やかに思い出された。
まだ小学校に上がる前、
両親と多摩川園に来て、帰り際に鮎やきを買ってこの河川敷に来たのだ。
西の空の太陽は赤くなり始めていた。
河原には露店も出ていて、
葡萄のジュースを買って土手の草の上に座っていると、
小鳥が父の肩に停まった。それは赤い嘴の白い文鳥だった。
手乗りだったのだろう、逃げる気配が無かった。
母がそっと両手で捕まえて、僕の籐のバスケットに入れた。
帰りの電車の中、バスケットの蓋を薄く開けて何度も何度も覗きながら帰った。
そんなたわいのない思い出を
多摩川園前商栄会に健在の懐かしい美味しさが引きずり出してくれた。
今日、思いもかけずに、忘れていた昔の何気ない一日が記憶の底から湧いてきた。
思い出は決して消え去ることは無い。
どんな事柄も心の襞の奥にきちんと仕舞ってある。
商店街には、忘れていた記憶を蘇らせるチカラもあるようだ。
あの日から、僕は、ここまで来たのだな。

案内人:小林猛樹
写真はこちら

案内人

商店街。ひと、もの、あじ

  • 大黒堂

    大黒堂

    昭和四年創業の和菓子店。今日、水曜日は定休日なのだが運よく予約注文の「鮎やき」を焼いているところに出くわした。年季の入った鮎の焼き型にカステラ生地を流し込み、たっぷりのこし餡を頭から尾まで入れているのは三代目のご主人。店では。鮎やきの他、人形焼きと観劇饅頭も焼いている。それぞれの生地に合うように餡も軟らかさを変えて煮ているそうだ。無理を言って鮎やきをわけてもらえないかと頼むと、嫌な顔一つせずに応じてくれた。鮎やきの優しい甘さに、ご主人の人柄を感じた。

    大黒堂

    大黒堂 大黒堂

    昭和四年創業の和菓子店。今日、水曜日は定休日なのだが運よく予約注文の「鮎やき」を焼いているところに出くわした。年季の入った鮎の焼き型にカステラ生地を流し込み、たっぷりのこし餡を頭から尾まで入れているのは三代目のご主人。店では。鮎やきの他、人形焼きと観劇饅頭も焼いている。それぞれの生地に合うように餡も軟らかさを変えて煮ているそうだ。無理を言って鮎やきをわけてもらえないかと頼むと、嫌な顔一つせずに応じてくれた。鮎やきの優しい甘さに、ご主人の人柄を感じた。

商店街。MAP

  • ●住所
     ・大田区田園調布1丁目53

コメント

*が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

トップへ
街てく。