蒲田
京浜東北線 蒲田駅

蒲田初音鮨

商店街一覧

弟子の握る鮨に映るのは、親方と先代女将の人柄。

蒲田駅西口の片隅に白い瀟洒な建物がある。
壁に記された文字は「HATSUNE」。
一見では、ここが明治時代から130年以上続く
鮨店とは分からないだろう。
今、「蒲田初音鮨」の暖簾を守るのは
四代目親方の中治勝と娘で五代目若女将の睦。
今日は四代目のお招きで
若手の四人の弟子たちの腕試しの場に
立ち会わせてもらうことになった。
立派なカウンターに座るのは四代目と僕。
ビールを飲んでいると、調理場から運ばれてきたのは
蒸し竈と羽釜で炊かれた銀シャリだ。
親方に聞くと蒸し竈で炊かれたシャリは絶品とのこと。
目の前でシャリを大きな桶に移して
赤酢をかけて杓文字で切るように混ぜていく。
酢飯が出来上がったら一つまみ指先へ乗せてくれた。
出来立ての酢飯を味わうのは、この後に
ネタとシャリが一体になった時との差異を感じるためだ。
最初のネタはアオリイカ。
弟子がイカを下ろしていく。
下ろしたイカは大きな厚手の皿に乗せられた。
親方は僕にネタを載せた大皿を触ってみろと言った。
触ると皿はかなり暖かい。
40度以上はありそうだ。
親方によると、人の口に塩梅が良い握りの温度は
30度くらいだそうだ。
握りになったアオリイカを口に入れて噛む。
もっちりとしたイカの歯応えと
ネタとシャリの一体感が口中を幸せにする。
出来立ての酢飯より
時間を経た酢飯の方がまろやかだ。
親方が「もう少し薄く切ったほうが良いな」と指導する。
薄く切り直したアオリイカを口へ運ぶ。
咀嚼すると確かに先程の握りより
ネタとシャリが口中で程好くほどけて、
とろけ合っていく。
次は小肌。
軽く酢で〆られた小ぶりの小肌を食べた後に、
少し大きめの小肌を食べ比べる。
続いて平目。
平目のねっとりとした感じは
何かしら仕事が施されているのだろう。
美味いの一言。
次いで鯵。
弟子が鯵を下ろしていると親方が短く切れと一言。
ネタは厚くて大きくて新鮮なら良いと言うわけでは無く、
仕事を施して熟成させ、シャリと一体になる厚さ、
大きさ、温度が大切なのだと親方が話してくれた。
その後、車海老、漬け鰹、鮪、イクラの軍艦と握り、
雲丹の軍艦と握り、鰹と胡瓜の巻物、干瓢巻きと頂いた。
弟子たちが握ったとはいえ、どれも絶品で満腹。
このネタとシャリの一体感が初音鮨の味なのだな。
加えて言えば、四代目と四代目の奥方のみえ子さんの一体感も
初音鮨の売りだった。
みえ子さんは3年前に鬼籍に入ってしまったが、
それまでは二人で初音鮨を育ててきた。
極上の味と最高の接客で蒲田にミシュラン星の鮓店を誕生させた。
まだ初音鮨が町場の普通の鮨店だった頃、
みえ子さんは昼間友達の印刷会社でアルバイトをして、
夕方から初音鮨の女将として頑張って来た。
親方は、そんなみえ子さんの姿を見て、
彼女のために初音鮨をここまで育て上げた。
親方を育てたのはみえ子さんだと断言できる。
かっちゃん、みえ子さん、今日はごちそうさまでした。

案内人:小林猛樹
写真はこちら

案内人

商店街。ひと、もの、あじ

商店街。MAP

  • ●住所
     ・大田区西蒲田5丁目20−2

コメント

*が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

トップへ
街てく。